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「元お笑い芸人」社労士だからできる”安心して働ける職場作り”を目指して。だんの社労士事務所・檀野篤志さん

2019.9.17

「自分は芸人を辞めたとき、夢は『1人1個』だと思ってました。だから10年以上も人生が止まっちゃったんです。でも夢って1個じゃないんですよ」

絶妙な語り口で周囲をなごませる檀野篤志さんは、元お笑い芸人の社会保険労務士。コンビ『アジアンパワー』解散後、パチンコ店での13年間の勤務を経て、2018年に社労士事務所を設立。独立後は「元芸人」社労士だからこそできる”安心して働ける職場づくり”を追求しています。

「元芸人」のキャリアを隠したがる人が多い中、むしろ前面に押し出して活動する檀野さん。芸人を辞めて約15年が経った今、過去の経験をどのように仕事に役立てているのでしょうか?


<プロフィール>
社会保険労務士・檀野篤志(だんのあつし)さん

大学卒業後、吉本総合芸能学院(以下、NSC)に入所。お笑いコンビ『アジアンパワー』として約3年間活動した後、パチンコ店で13年勤務。働きながら資格学校に通い、2017年社会保険労務士試験に合格。1年間の研修を経て、2018年だんの社労士事務所を設立。元芸人の経歴を活かして安心して働ける職場を作るべく、社会保険労務士 兼「コミュニケッター」として活動中。

だんの社労士事務所:https://www.dan-sr.com/


 

「面白くなるしか、生きる道はない」小学生のときに悟った自分の人生

ー檀野さんはなぜ芸人になろうと思ったのですか?

昔からモテたかったり、人気者になりたかったんですよ。小学校でモテるための条件には、「顔かっこいい」あるでしょ。あと、「運動神経いい」あるでしょ。中学校からは「勉強ができる」っていうのもありますよね。僕、これ全て当てはまらないんです。でもね、大阪にはあるんですよ、もう一個モテる方法が。それがお笑いなんです。僕は「面白くなるしか生きる道ないな」と小学校で悟りまして。そこから、どうやったら相手に楽しんでもらえるか、受け入れてもらえるかということを常に考えてきましたね。

勉強は全然あかんかったんですよ。小学校の通知表を見たら、体育以外はぜんぶC。それぐらい頭も良くなかった。小学校から高二くらいまでずっとフワッフワして、落ち着きがなかったですね。

大学卒業するときに就職活動しようかなと思ったんですけど、やりたいことはなくって。僕はクラスで何かとちやほやされることが多かったので、勘違いかもしれないんですけど(笑)、それで芸人やってみようかなと思ったんです。

ー大学卒業後はNSCに入ったのですね。

そうです。吉本の本社に行って、「芸人になるにはどうしたらいいんですか?」と聞いたらNSCを紹介してもらって、そのまま入所しました。

同期は最初600人くらいだったのですが、1年後には50人くらいになるんですね(笑)。僕はNSCで知り合った相方とコンビを組んで、卒業公演では上位20組に選ばれたんです。ちょうどM-1が始まったくらいの時期でしたね。

ー卒業後も芸人として活躍されていたとのことですが、なぜ辞めてしまったのですか?

卒業してからはちょこちょこ自主的にライブをやったりしていたんですが、事務所主催ライブのトーナメントにどうしても勝ち上がれなかったんです。最後の方は面白いことが考えられなかったんですね。結局、卒業後2年活動して芸人は辞めました。

僕はこのとき思ったんですけど、舞台の笑いとコミュニケーションの笑いは違うんですね。舞台は自分で考えたネタでお客さんを笑わせるので、自分本位なんです。お客さんが誰であろうが、ネタで話す内容は変わらないですよね。一方、コミュニケーションは相手にとって何が面白いかを見て発言するので、相手本位なんです。全然違うんですよね。僕は舞台派ちゃうな、コミュニケーション派やなと思いましたね。

ー芸人を辞めたあとは、就職活動をしたのですか?

いや、就職活動も何も、そもそも「芸人辞めて、働けるところなんてあるのかな?」と思って。とりあえず派遣会社に行って、紹介してもらったのがパチンコ屋だったんです。お金がなかったので、そこで働き始めました。

パチンコ屋は大変でしたよ。玉運ぶのだって、あれめっちゃ重いですよ。腰なんてすぐ砕けますから。ランプ光って呼ばれたら5秒以内に行かないといけないルールがあったりして。汗だくになりますし、体育会系の職場でしたね。

ただ、ハードではありましたけど、不思議と居心地はよかったんです。常に動いているので考えごともしなくていいし、ちょっとずつ出世するし、給料も悪くないし。周りの人もいい人で、すごく嫌だなって思ったことは一回もないんです。結局13年も働きました。

ー居心地がよかったのに、なぜパチンコ屋を辞めてしまったのですか?

それが、ある日気づくんですよ。「これちゃうな」と。やっぱり自分の力で稼ぎたいですし、有名になりたいという思いもまだ少しありましたし。ひたすら玉を運ぶ日々は違うなと、パチンコ屋で10年以上も働いてから、ふと気が付いたんです。

 

営業で役立ったのは、社労士の実績ではなく「元芸人」の自分

ー社労士という選択肢は、なぜ浮かんで来たのでしょうか?

パチンコ屋で採用や教育の仕事もしていたんですが、現場がハードなのでめっちゃ辞めるんです。1ヵ月もつ人は2割くらいちゃいます? どうしたら働きやすい環境になるのかなと常々考えていました。

その頃、たまたま父が社労士の資格を取ったんです。このときまで社労士なんて知らなかったんですが、調べてみたら僕の仕事にも関係しているし、「この資格を取ったら何か変わるんじゃないか」と思ったんですね。そこで、資格取得を目指して勉強することにしました。シフトは早番遅番とあるので、資格学校のスケジュールともうまく組み合わせることができましたね。

ー働きながら資格学校に通って勉強したのですね。かなり大変だったのではないですか?

それが、そんなに苦労した記憶はないんです。さっきも言ったように子どものころは成績が悪かったので、自分アホかなと思ってたんですけど、アホじゃなくて、フワフワしてただけだったんですよ。大人になったら集中できるようになってたんです。勉強に対するアレルギーのようなことも全然なくて、毎日勉強してましたね。今まで勉強していなかった分、脳のスペースに知識がガポガポ入りました。えらい入るなぁ思って(笑)

結局2回目の受験で合格して、1年の研修を終えてすぐに独立しました。

ー社労士の合格率って5%くらいですよね? 2回目で合格とはすごいですね…。実際、独立してみていかがでしたか?

独立した日は看板つけて、写真取ったんです。よし、今日からや!みたいな。でも「あとなにすんねん!」と(笑)。初日はそれで終わりましたね。

まずは仕事取ってこなあかんと思って、タウンワーク見ながらテレアポしましたけど、全然ダメで。これは会って自分見てもらってなんぼちゃうかなと思って。中小企業の社長に会える交流会に足繁く通いました。すると気に入ってくださった方がいて、運よく仕事をもらえたんです。そのあとは紹介を中心に仕事が増えていきました。

ー独立してすぐの実績もない中、順調に仕事を獲得するとはさすがですね。

実際に経営者の方と会って話したときに、社労士としての過去の実績を聞かれたことはあまりないんです。そういうことは聞かずに、早速会社の悩み事を話してくれることが多い。だから、この仕事って実績ちゃうんちゃうかなと。人を見て、話して、いいと思ったら依頼してくれるものなんじゃないかなと思っています。

ちなみに「芸人してたんです」と言うと、めっちゃ引き強いんです。名前は覚えてくれなくても「元芸人の社労士さん」と呼んでくれて、いろんな人に合わせてくれたりするんですよ。芸人をしていたことに対して、ネガティブな反応をされたことはほぼ無いです。

ー檀野さんは「元芸人」の経歴を隠すどころか、名前代わりに使っているんですね(笑)

そうです。売れずに辞めた芸人さんて、「元芸人」を隠す人が多いと思うんです。僕も昔は言うの嫌でした。でもでも社労士になってからは、バシバシ言うようになりましたね。そうすると「司会して」とか、「忘年会でなんかやって」と言ってもらえるんですよ(笑)。実際、顧問先の忘年会に「こんな社労士は嫌だ」とかネタ作って行きましたからね。もちろんサービスです。でも人前に出たり、周りを楽しませたりすることが好きなので、嬉しいんですよ。引きは強いし、自分のやりたいことをやらせてもらえる。「元芸人」は強みでしかないです。

 

「元芸人」は強みでしかない。芸人辞めても止まらずに進もう!

ー社労士として順調に滑り出した檀野さんですが、今後の目標はありますか?

「安心して働ける職場」を作ることにこだわっていきたいですね。ただ、一般的に社労士の仕事と言われているやり方だけではないです。僕が一番やりたいのは、社内に面白いコミュニケーションを作り出すこと。それによって「安心して働ける職場」を作りたいんです。そのために社労士とは別に、「コミュニケッター」というもう一つの肩書きを自分につけています。その上で、中北さんの本『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』の内容はぜひ参考にしたいと思っています。

ー僕の本を読んで下さりありがとうございます。社労士という専門性と、芸人のキャリアが活かされた素晴らしい目標だと思いますし、檀野さんならきっとできると思います。ちなみに、弊社はお笑い芸人からの転職支援サービス『芸人ネクスト』というサービスを運営しています。元芸人の立場から、このサービスについてはどう思われますか?

めちゃくちゃいいと思います。芸人さんて普通の人より仕事できると思うんですよ。一応クラスの人気者だった方が多いので、コミュニケーション能力を活かして即戦力になるんじゃないかと思います。特に営業は合っていると思いますね。

ただ芸人は、お笑いで売れなければならないと自ら思い込んでいるので、就職に目線が行っていないんです。僕も芸人を辞めたときは、「自分を取ってくれる会社なんてないだろう」とやる気をなくしていました。でも『芸人ネクスト』のようなサービスがあったら、まだ自分はやれるんだと勇気をもらえますよね。

ー最後に、芸人を辞めて就職するか迷っている方に対してメッセージをお願いします!

僕は芸人を辞めたとき、夢は『1人1個』だと思ってました。だから10年以上もパチンコ屋で人生が止まっちゃったんです。でも夢っていっぱいあるんですよ。芸人終わってもお金稼げるし、人に必要とされることもできる。夢を諦めたときってやる気がなくなってしまうけど、そこで止まったら終わり。進もうと言いたいです。本気出したら、敷かれたレールの上を歩いて普通に就職した人よりも、絶対活躍できますから。

ー檀野さん、お忙しい中ありがとうございました!

(取材、文、写真・一本麻衣

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